遺産に対する相続人の対応とは? 単純承認,限定承認,相続放棄の違いと特徴をおさえておきましょう。

相続

続が始まってから三か月以内でないと相続放棄が出来なくなる,という話を聞いたことはありませんか。
相続放棄はよく耳にする言葉ですし,三か月以内というのも何となく聞き覚えがあると思います。
そして相続といえば,すべての相続財産を相続する・しない,の二択しかないと思いがちですが,他にも相続の仕方があります。
実は,相続人が相続財産に対して取りうる態度には三種類「単純承認」「限定承認」「相続放棄」があるんです。
「単純承認」と「限定承認」は聞きなれない言葉ですよね。
今回は,相続財産に対する相続人の対応,三種類を解説していきます。

単純承認・限定承認・相続放棄


それぞれの名前を見ると,
単純承認は「単純と言うくらいだから,遺産をそのまま受け取るの?」
限定承認は「限定なんだから,遺産の一部を限定的に受け取る?」
相続放棄は「これは知ってる。遺産の受け取りを拒否するんでしょ?」
・・・と思うのではないでしょうか。

その解釈は,合っているところと間違っているところがあります。
では最初に,それぞれについて大まかな説明をしてみます。

・・・と,その前に,相続財産にはプラスの財産とマイナスの財産があることはご存じでしょうか。
相続財産といわれると,預貯金や不動産といったプラスの財産を想像しますが,借金や未払いの税金などのマイナスの財産も相続財産になるのです。

それを踏まえたうえで,大まかに説明すると,
単純承認:プラス・マイナスすべての財産を相続する。
限定承認:プラスの財産の範囲でマイナスの財産を清算し,残りを相続する。
相続放棄:プラス・マイナスすべての財産を相続しない。
ということになります。
では,それぞれの特徴について説明していきます。

単純承認


単純承認は,被相続人(亡くなった方)の相続財産をすべて相続する方法です。(民法九百二十条
民法では「自己のために相続の開始があったことを知った時から三箇月以内」に家庭裁判所に単純承認を申述する(民法九百十五条)とありますが,何もしなければ自動的に単純承認を選択したものとみなされます。(民法九百二十一条
単純承認を選択する方で,わざわざ家庭裁判所に行く方は少ないようですね。
マイナスの財産よりプラスの財産が多いことが分かっている場合などは,単純承認を選択してもいいでしょう。

単純承認を選択する場合の注意点は1つです。
1.3か月を過ぎてからマイナスの財産が見つかったら相続人が負担
単純承認を選択し,「自己のために相続の開始があったことを知った時から三箇月」を過ぎてからマイナスの財産が見つかった場合,相続人が負債を背負うことになります。
期限を過ぎてから限定承認や相続放棄に切り替えることはできません。
単純承認を選択する際は,相続財産をしっかり確認することが大切です。

一般的に単純承認を選択する(もしくは何もしない)方が多いようですが,以上の注意点を心得ておいてください。

限定承認


相続財産のプラスとマイナスのどちらが多いかわからない場合や,相続財産の債務超過が分かっていても,どうしても相続したい住居や家宝などがある場合に選択します。
民法では「自己のために相続の開始があったことを知った時から三箇月以内」に家庭裁判所に申述する(民法九百十五条)とあります。
相続放棄では全ての相続財産を手放すことになりますが,限定承認ではプラスの財産の範囲でマイナスの財産を清算すればいいので,引き継ぎたい住居や家宝などがある場合,負債をすべて清算しなくても相続することができるようになります。
例1:プラスの相続財産が現金150万円,マイナスの相続財産が借金200万円の場合
限定承認の場合,相続人はプラスの相続財産である現金150万円の範囲で借金を清算すればよく,清算した借金の残り50万円は相続人が負担する必要がなくなります。
相続開始のときにプラスの相続財産とマイナスの相続財産のどちらが多いかわからない時は,限定承認を選択してもいいでしょう。
例2:プラスの相続財産が現金100万円と家宝50万円,マイナスの相続財産が借金200万円の場合
前例の通り,限定承認の場合はプラスの相続財産150万円の範囲で借金を清算すればいいのですが,仮に家宝だけは手元に残したい,という希望があったとします。
限定承認であれば,清算する150万円分のうち100万円分はプラスの相続財産である現金で返済し,家宝の50万円分は相続人が負担して返済することができます。
そうすれば家宝自体を借金のカタに取られることなく相続人が引き継げることになります。

限定承認を選択する場合の注意点は3つあります。
1.相続人全員でおこなう
限定承認は,相続人全員で行う必要があります。(民法九百二十三条
相続人が1人でも反対すれば限定承認は行えません。
2.限定承認の手続きは3か月以内に行う
「自己のために相続の開始があったことを知った時から三箇月」を過ぎてしまうと,自動的に単純承認したとみなされます。
限定承認する場合は,3か月以内に家庭裁判所へ申述してください。
3.限定承認を選択した後でも,故意に財産を処分したら単純承認になる
相続人が故意に相続財産を隠したり,相続財産を勝手に処分した場合は,限定承認を選択した後でも単純承認したものとみなされます。(民法九百二十一条
マイナスの財産が理由で限定承認した場合でも,単純承認とみなされれば相続人が負債を背負うことになります。
相続財産は隠したりせず,きちんと手続きを行わなければなりません。

一般的に限定承認をする人は少ないようです。手続きの期限もありますので,決断はお早めに。

相続放棄


その名の通りプラスの相続財産もマイナスの相続財産も,すべての相続財産を引き継がない選択です。
民法では「自己のために相続の開始があったことを知った時から三箇月以内」に家庭裁判所に申述する(民法九百十五条)とあります。
マイナスの相続財産がプラスの相続財産を上回っていることが明らかな場合や,相続したい財産がない(相続したくない)場合などに選択します。
そして相続放棄をすると,相続開始のときから相続人ではない,つまり相続の手続き上は最初からいなかったことになります。

相続放棄を選択する場合の注意点は4つあります
1.相続放棄の手続きは3か月以内に行う
「自己のために相続の開始があったことを知った時から三箇月」を過ぎてしまうと,自動的に単純承認したとみなされます。
相続放棄する場合は,3か月以内に家庭裁判所へ申述してください。
2.相続開始前に相続放棄はできない
相続放棄ができるのは「自己のために相続の開始があったことを知った時から」(民法九百十五条)になりますので,相続開始前にあらかじめ相続放棄することはできません。
例えば相続人の間で「自分は相続を放棄する」と宣言していたとしても,民法上の相続放棄には該当しないので注意してください。
相続放棄は家庭裁判所に申述して初めて法的効果を持ちます。
3.他の親族が法定相続人になることがある
相続放棄をすると,最初から相続人ではなかったことになります。つまり,状況によっては相続人ではなかった親族が相続人になる可能性があるということです。
例えば被相続人(亡くなった方)に兄弟,妻,子がいた場合,法定相続人は妻と子になります。
しかし被相続人の子が相続放棄をすると,子は最初から相続人ではなかったことになりますので,法定相続人は妻と兄弟になります。
他の親族に影響が及ぶ場合がありますので,相続放棄を選択する場合は他に影響する親族がいるかどうか確認したほうが良いでしょう。
4.相続放棄を選択した後でも,故意に財産を処分したら単純承認になる
これは限定承認と同じです。
相続人が故意に相続財産を隠したり,相続財産を勝手に処分した場合は,相続放棄を選択した後でも単純承認したものとみなされます。(民法九百二十一条
マイナスの財産が理由で相続放棄した場合でも,単純承認とみなされれば相続人が負債を背負うことになります。
相続財産は隠したりせず,きちんと手続きを行わなければなりません。

相続放棄はよく耳にしますが,今まで知らなかった注意点もあったのでは?

いかがでしたか。
相続人が相続財産に対して取りうる対応について説明してみました。
相続は誰でも経験することです。
今のうちに単純承認,限定承認,相続放棄についてちょっとでも知っておくと,いざというときに慌てなくて済むかもしれませんね。

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