遺言と言えば公正証書遺言・・・とまではいかないものの、遺言の作成を受任したほとんどの専門家は公正証書遺言を推しています。
遺言書には公正証書遺言、自筆証書遺言、秘密証書遺言などの種類があって、それぞれ特徴とメリット・デメリットがります。
もちろん全てにおいて万能な遺言方式はありませんので、遺言者(遺言を残す人)が何を重要視するかによって選ぶことになりますが、やはり専門家は公正証書遺言をお勧めしています。
今回は多くの専門家が推す公正証書遺言について、その特徴とメリット・デメリットを説明します。
公正証書遺言
公正証書遺言とは、簡単に言えば「公証役場で作成する遺言」のことをいいます。
公証役場は全国にあり、ここ岩手県にも4か所あります。
(盛岡合同、宮古、一関、花巻)
遺言者が、公証役場にいる公証人に遺言の内容を伝え、公証人・証人が法的に間違いのない遺言になっているかどうかを確認したうえで作成されるのが公正証書遺言です。
公正証書遺言の特徴
公正証書遺言は、民法で定められた遺言の方式です。(民法九百六十九条)
私たちには「遺言書は1人で作るもの」というイメージがあると思いますが、公正証書遺言は遺言者・公証人・証人と共に作成する遺言です。
公正証書遺言を作成する場所は公証役場で、基本的に遺言者が公証役場に出向いて遺言を作成します。
遺言者が遺言の内容を公証人に伝え、公証人と証人が法的に問題なく執行できる遺言の内容かを確認します。
そして遺言者自身も遺言の内容を確認し、公証人・証人・遺言者が署名・押印して公正証書遺言の完成です。
証人
公正証書遺言作成では2人以上の証人の立会いを必要とします。
証人とは誰で、何をする人でしょうか。
証人になれる人・なれない人
公正証書遺言の証人になる人には、特別な資格は必要ありません。
ただし、次の人は証人になれない事が民法に規定されています。(民法九百七十四条)
・未成年者
・推定相続人や推定受遺者
・推定相続人や推定受遺者の配偶者や直系血族(子・孫や父母・祖父母など)
・公証人の配偶者や四親等内の親族、書記及び使用人
要するに、十分な判断能力がない人や何らかの利害関係が推測される人は、証人になれません。
証人の役割
法律で立ち合いが定められている証人には、公正証書遺言を作成するにあたり次のことを確認する役割があります。
・遺言者に人違いはないか
・遺言者は正常に遺言ができる状態か
・遺言者は自分の意思で遺言の趣旨を話しているか
・公証人が作った遺言書と遺言者の思いに相違はないか
公正証書遺言を作成するとき、証人は以上の点を確認して署名、押印します。
後日トラブルに巻き込まれることも
相続開始後に、相続人から遺言の内容について「本人の意思に反して作られているのではないか?」とか「正常な判断能力がない状態で作成したのではないか?」といった申し出があった場合、相続人の間でもめごとになり訴訟に発展することも考えられます。
すると、公正証書遺言の作成時に立ち会った証人が裁判所に呼ばれて、当時の状況を聞かれることもあります。
証人には大変重要な役目があるとともに、トラブルに巻き込まれる可能性がゼロではないのです。
公正証書遺言のメリット
公正証書遺言は「安全性」「確実性」が高い遺言方式と言われています。
そして公正証書遺言には大きく4つのメリットがあります。
紛失、偽造、改ざんの心配がない
公証役場で作成した公正証書遺言の原本は公証役場で保管されます。
そのため自宅などで保管している場合と比べ遺言書を紛失する可能性はありません。
また悪意のある相続人が遺言書を偽造、改ざん、遺棄するなどの心配もありません。
遺言が無効になる可能性がほとんどない
遺言書は法律で厳格に様式が定められていますので、ちょっとした誤りで遺言が無効になってしまうことがあります。
その点、公正証書遺言は遺言の内容が法的に間違いがないか公証人と証人2人でチェックしますので、作成した遺言書が無効になる可能性がほとんどありません。
自分で遺言書を書かなくていい
例えば自筆証書遺言は、財産目録を除きすべてを自筆しなければならず、何らかの事情で字が書けないと自筆証書遺言を作ることができません。
また細かい内容の自筆証書遺言を書こうと思うと、遺言者にとって負担が大きくなりますね。
公正証書遺言では、遺言の内容を公証人に伝えればいいので、文字が書けなくても遺言書を作成できます。
細かい内容であっても、遺言者は内容を伝えるだけで済むので負担も軽くなります。
また言語や聴覚に障害のあるかたでも、手話や筆談によって遺言の内容を伝えることが認められています。
家庭裁判所の検認が必要ない
遺言者が保管している自筆証書遺言や秘密証書遺言が見つかったときは、家庭裁判所の検認を受ける義務があります。(民法千四条)
検認には、見つかった遺言の状態を記録し偽造や改ざんを防ぐ目的がありますが、手続きが終わるまで1か月ほどかかるので、相続手続きが終わるまでの期間が長くなってしまいます。
しかし公正証書遺言には偽造改ざんの可能性がありませんので、検認を受けることなく速やかに相続手続きを始められます。
公正証書遺言のデメリット
いいことづくめの公正証書遺言ですが、決して万能ではありません。
公正証書遺言には次のデメリットがあります。
証人が2人以上必要
公正証書遺言を作るには、2人以上の証人を用意しなければなりません。
証人となる方には、先ほどの役割や責任を理解していただく必要があります。
また、証人は遺言作成の場面に立ち会いますので、お知り合いを証人に選んだ場合に遺言の内容を知られてしまうことになります。
ここが遺言者ご自身で証人を探すときのネックになるようです。
もちろん専門家に依頼することもできますよ。
様々な書類が必要
公正証書遺言の作成に当たり、様々な書類を用意しなければいけません。
例えば戸籍謄本、印鑑登録証明、住民票、登記事項証明書、固定資産税の納税通知書、などです。
これらの書類を集めるには、時間と手間と手数料が必要になります。
作成に時間がかかる
公正証書遺言を作るとなれば、公証人との打ち合わせ、証人探し、必要書類の収集など、それなりに時間がかかります。
また書類があるからと言って、いきなり公証役場に行っても対応して頂けませんので、事前の予約が必要になります。
その後、何度かの打ち合わせを経て公正証書遺言の完成となります。
作成に費用がかかる
公正証書遺言を作成するためには、様々な費用がかかります。
・戸籍や印鑑登録証明、住民票などの交付に係る費用
・証人に足を運んでもらうための日当
・公正証書遺言作成の手数料
・作成した公正証書遺言の謄本を交付するための手数料
特に公正証書遺言作成の手数料は、遺言により相続する金額に基づいて計算されます。
遺言の内容を完全に秘密にはできない
公正証書遺言の作成には、少なくとも公証人と証人2人が関係します。
そのため、遺言の内容を完全に秘密にすることはできません。
もちろん、公証人と証人には守秘義務がありますので、公証人や証人から遺言の内容が外に漏れることはありません。
公正証書遺言の作り方
では、実際に公正証書遺言を作成する手順を確認してみます。
遺言の内容を検討する
遺言者(遺言書を作成する人)は、誰に何をどのくらい相続させるのか、相続人以外にも遺贈するのか、などについて十分検討します。
その内容を紙に書くなどして準備します。
証人を依頼する
遺言者が証人を選ぶ場合、先ほど書いた「証人になれる人」から選ぶようにします。
もし証人になって頂ける人の心当たりがない時は、専門家にお願いしてもいいでしょう。
必要な書類を集める
公正証書遺言を作るためには、様々な書類が必要になります。
例を挙げると
・遺言者の印鑑登録証明
・遺言者と相続人の関係が分かる戸籍謄本
・相続人以外に遺産を遺したいときは、その受遺者の住民票
・相続財産に不動産があれば、その登記簿謄本と固定資産税評価証明書
・証人を遺言者が選ぶ場合は、証人の名前、住所、職業を書いたメモ
などがあります。
何が必要になるかは、事前に公証役場に確認してください。
公証役場に予約する
いきなり公証役場に行っても、公正証書遺言を作成することはできません。
まずは公証役場に連絡して、打ち合わせの予約を取ってください。
事前に公証人と打ち合わせる
予約した日時に公証役場に行って、遺言者が考えている遺言の内容を伝えます。
必要書類も提出して、公正証書遺言の作成を依頼します。
打ち合わせが終われば、公正証書遺言の作成日が決まります。
遺言者と証人2人で公証役場へ行く
公正証書遺言の作成日に、証人2人と公証役場へ行きます。
健康上の理由などで公証役場に出向けない時は、自宅や病院に公証人の出張を依頼することも出来ます。
ただその場合、公証人の日当が必要になります。
公証人が遺言者の本人確認、遺言の内容確認を行う
遺言者が本人であることと、本人の意思で遺言を作成すること、遺言の内容が本人の希望と相違ないことなどを確認します。
遺言者、公証人、証人2名の署名押印
本人確認や遺言内容の確認などが終われば、遺言者、公証人、証人2人で公正証書遺言に署名、押印します。
公正証書遺言の完成
公証人は公正証書遺言を3通作成し、1通は原本として公証役場で保管されます。
2通は正本および謄本として遺言者に渡されます。
これで公正証書遺言は完成です。
まとめ
こうして改めて書くと、公正証書遺言を作るのは面倒な感じがします。
手間もかかるしお金もかかるし・・・
でも公正証書遺言は、遺言を残す方の想いを確実に実現できる方法です。
もし遺言を残そうとお考えでしたら、まずは公正証書遺言を考えてみてください。
相続・遺言のご相談は、行政書士 戸田事務所まで
対応エリアは岩手県全域で、現在は盛岡市、滝沢市、雫石町、岩手町、矢巾町、紫波町を中心に業務を行っております。
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